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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)9908号 判決 1972年9月12日

原告 二村鉱

右訴訟代理人弁護士 円山潔

被告 (昭和三八年八月一八日死亡した後藤新二の承継人) 後藤ヤヱ

右訴訟代理人弁護士 松本憲吉

右復代理人弁護士 松波十一

同 佐伯修

同 渡辺正造

被告 横浜信用金庫

右代表者代表理事 鈴木一

右訴訟代理人弁護士 喜多良雄

主文

一  原告の被告両名に対する各請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

別紙要約調書に記載するとおりである。

二  当事者の事実上の主張

別紙要約調書ならびに「原告の補正陳述」「被告後藤ヤヱの補正陳述」および「被告信用金庫の補正陳述」に記載するとおりである。

ただし、右各書面のなかで「被告後藤」とあるのは訴訟承継前における被告後藤新二(被告後藤ヤヱの夫)をさすものである。

三  証拠関係≪証拠省略≫

理由

一  登録の有無について

≪証拠省略≫によれば、原告は昭和二八年八月頃から東京都品川区のもと大井駅前の公会堂附近において光住宅社という名称で、不動産仲介業を営んで来たものであり、原告主張にかかる本件仲介行為は原告の営業活動の一環としてなされたものであることが認められる。ところで原告主張の本件仲介行為の当時(昭和三〇年二月頃ないし五月頃の間)原告自身が宅地建物取引業法で規定されている登録を受けていなかったことは、当事者間に争いがない、そこで前記光住宅社において原告以外の者が当時右の登録をうけていたかどうかの点につき検するに、その方式ならびに趣旨からして公文書として真正に成立したものと認められる第乙四号証によれば、光住宅社について、新規登録がなされたのは、昭和三一年一月一四日であり、その登録名義人は原告の妻二村良(同人は光住宅社の代表者とされている)であることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫したがって本件各仲介行為の当時は原告が経営する光住宅社においては、登録ずみの者はなかったものというべきである。

二  未登録の不動産取引業者の報酬請求権について宅地建物取引業法は昭和二七年法律第一七六号として制定され、同年八月一日から施行されたものであるが、屡次にわたる改正により次第に業者に対する規制が強化、整備されて来たので現行法のもとにおいては、無免許の業者が宅地建物の仲介契約をした場合、報酬請求権が裁判上認められないことについてはおそらく異論はない。

問題なのは本件の場合のように、取引主任者制度(昭和三二年法第一三一号により創設)が未だ設けられず、また、登録制度が免許制度(昭和三九年法第一六六号により創設改正)に移行する以前の法制の下における未登録業者の報酬請求権である。そこで昭和三〇年当時における宅地建物取引業法における登録についての規制の態容を検討するに、まづその第三条第一項において、「宅地建物取引業を営もうとする者は、この法律の定めるところにより登録を受けなければならない」と規定し、第一二条において「第五条第一項の規定(登録の実施に関する規定)による登録を受けない者は宅地建物取引業を営んではならない」と規定し、第二四条において右第一二条の規定に違反した者については、三年以下の懲役もしくは三〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と規定していること、そして右登録の申請については第六条において一定の欠格事由を規定するなどして、業者の資質の向上を所期していることなどが認められ、これらの点から考えると未登録業者による宅地建物の仲介等の行為が強く禁止されていることが明らかである、そして国がその行政的規制の面においてこのように登録を重要視している場合には、司法の面においても、未登録業者のなした仲介委託契約における報酬請求権の成否については、一定の制約を考慮することが要請されるものと考える。すなわち、未登録業者の報酬請求権は、それが業者として未登録という点を除いては、実体法上完全に成立する場合でも、裁判所の力をかりて実現することは許されないものと解するのが妥当である。換言すれば裁判外において委託者が任意に報酬を支払うことは許されると同時に、業者がこれを受領してもそれは不当利得とはならないが、業者の側から裁判所に対してその報酬請求権について確認または給付の請求はなし得ないものと解する。

本訴は証拠上実体的な面においても種々問題があるが(例えば被告信用組合と原告間において、原告主張の仲介委託契約が成立したとする点は証拠に乏しく、また訴外後藤新二と原告との間においては一旦その契約が成立したことは一応認められるが、その後合意解除などにより契約は終了したのではないかという疑も強い)、これらの実体上の点についてはこれを判断を加えるまでもなく、原告が未登録の業者であったということにより、原告の本件各請求は既に理由がないと考えるので、これを棄却する。よって訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 伊東秀郎)

<以下省略>

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